はじめに:焙煎所で見た不思議な光景
コーヒー焙煎所を訪れたことがある方なら、一度は疑問に思ったことがあるはずだ。棚に並ぶ生豆のサンプル。エチオピア産は青緑色、コロンビア産も緑がかった色、グアテマラ産もやはり緑色。
しかし、「デカフェ」と書かれた袋だけが違う。明らかに茶色い。薄茶色から明るいシナモンブラウンまで、色調は様々だが、いずれも通常の生豆とは明らかに異なる色をしている。
「これ、焙煎済みですか?」
初めて見る人は、そう聞いてしまうかもしれない。しかし、これはれっきとした生豆なのだ。
なぜ、デカフェの生豆だけが茶色いのか?その答えは、カフェイン除去という複雑なプロセスにある。本記事では、海外の専門家たちの知見をもとに、この謎を科学的に解き明かしていこう。
第1章:通常の生豆とデカフェ生豆の色の違い
1-1. 通常の生豆の色
通常の生豆は、産地や品種によって微妙に異なるが、基本的には青緑色(ブルーグリーン)から緑褐色をしている。
この色は、生豆に含まれる以下の成分に由来する:
- クロロゲン酸(緑色を呈する)
- タンパク質
- 炭水化物
- 脂質
- 未発達のメラノイジン前駆体
新鮮で良質な生豆ほど、鮮やかな青緑色をしている傾向がある。
1-2. デカフェ生豆の色
一方、デカフェの生豆は以下のような色をしている:
脱カフェイン法による色の違い
- スイスウォータープロセス(SWP):濃い茶色〜ダークブラウン
- CO2法(超臨界二酸化炭素法):薄茶色〜ライトブラウン
- 溶剤法(MC/EA法):緑褐色〜茶褐色
- マウンテンウォータープロセス:ストロー色〜ライトシナモンブラウン
イギリスのDecadent Decaf社は「通常の非デカフェ生豆が青緑色をしているのに対し、デカフェコーヒーはストロー色から薄いシナモンブラウンに見える」と説明している。
アメリカのSweet Maria’s社も「脱カフェイン処理により生豆の色が変化する。薄茶色(ナチュラル法とCO2法)から緑褐色(MC法とスイスウォータープロセス)まで様々だ」と述べている。
1-3. 色の違いがもたらす誤解
この色の違いは、しばしば誤解を生む。アメリカのSagebrush Coffee社には、顧客から次のような問い合わせが頻繁に来るという。
「デカフェ豆が真っ黒で驚きました。焙煎しすぎではありませんか?」
実は、これは焙煎度が深いのではない。生豆の段階ですでに茶色いのだ。このことを知らない消費者は、デカフェ豆を見て「ダークローストだ」と誤解してしまう。
第2章:なぜ色が変わるのか?-科学的メカニズム
2-1. カフェイン除去プロセスの基本
すべてのデカフェ生豆に共通するのは、焙煎前に特殊な処理を受けているという点だ。
なぜ焙煎前なのか?
化学の教授Michael W. Crowder氏(マイアミ大学)は説明する。「焙煎後に脱カフェインしようとすると、焙煎で生成された香り成分がすべて溶け出してしまいます。クロワッサンを洗うようなものです。すべての良い成分が失われてしまうでしょう」
つまり、生豆の状態で処理する必要がある。生豆は構造が強固で、水分を吸収しても崩れにくい。
2-2. 脱カフェイン処理が豆に与える物理的変化
カフェイン除去プロセスでは、以下のような物理的変化が起こる:
①豆の膨張と収縮
- 水分を吸収して膨張(再水和)
- 乾燥時に収縮
- このストレスで細胞壁が脆弱化
②外殻(シルバースキン)の除去 Sweet Maria’s社によれば、「脱カフェイン処理により、豆の外側から薄いチャフ(シルバースキン)の多くが除去される」。これにより、豆の表面が滑らかになり、通常の生豆とは異なる外観になる。
③細胞構造の変化 アメリカのSagebrush Coffee社は次のように説明する:
「脱カフェイン処理は豆の外殻を弱くし、他のコーヒーよりもはるかに速く色を吸収するようになります。豆の構造の変化により、熱が豆の細胞にどのように伝わるかが変わり、SWPコーヒーの焙煎方法に影響を与えます」
2-3. 化学的な色変化のメカニズム
PMC(米国国立医学図書館)に発表された研究によれば、「脱カフェイン処理後、コーヒー豆の色は薄茶色に変わる」。
この色変化には、いくつかの化学的要因がある:
①クロロゲン酸の変性
- 水や溶剤への長時間の浸漬
- pH変化
- 温度による影響
- これらによりクロロゲン酸が部分的に分解・変性
②メイラード反応の早期開始 脱カフェイン処理中、特にスイスウォータープロセスでは8〜10時間も水に浸される。この間に:
- 糖とアミノ酸が反応
- 褐色物質(メラノイジン前駆体)が生成
- これが茶色の原因の一つ
③酸化反応 処理中の酸素曝露により、一部の成分が酸化。これも褐変の原因となる。
2-4. 処理法による色の違いの理由
スイスウォータープロセスが最も濃い理由
SWPは8〜10時間という長時間、水に浸漬される。この長時間の水処理が、最も顕著な色変化をもたらす。水溶性の成分が一度抜け出て、再び豆に戻る過程で、豆の内部構造が大きく変化するのだ。
CO2法が比較的薄い理由
超臨界CO2は、カフェインに対して選択的に作用する。水処理ほど豆全体を変化させないため、色の変化も比較的穏やかだ。
溶剤法の中間的な色
メチレンクロライド(MC)やエチルアセテート(EA)を使用する方法は、直接法と間接法で色が異なる。間接法の方が、豆への影響が少なく、色の変化も控えめだ。
第3章:焙煎時の驚くべき挙動
3-1. 「色を信じるな」-焙煎の鉄則
デカフェ生豆を焙煎する際、最も重要なルールがある。
「色で焙煎度を判断してはいけない」
Sweet Maria’s社は明確に警告している:「色の変化を焙煎レベルの指標として信用しないでください。デカフェコーヒーは非常に速く、非常に暗くなりますが、それは実際の焙煎レベルを反映していません」
3-2. 急速な色変化の理由
Sagebrush Coffee社のロースターは次のように説明する:
「通常のコーヒーを焙煎する場合、時間と温度を測定し、色を見て、クラック音を聞き、メイラード反応の匂いを嗅いで判断します。しかしデカフェの場合、焙煎中の色の変化がそれほど明確ではなく、クラック音もほとんど静かです。香りも通常のコーヒーほどではありません」
具体的な色変化の特徴
- 緑から茶色への急速な変化
- 生豆の段階ですでに茶色
- 加熱開始から短時間で濃い茶色に
- ファーストクラックの前に暗褐色に達することも
- 色の均一性
- 通常の豆:豆の中心と表面で色のグラデーション
- デカフェ豆:豆全体が均一に暗い色
- 表面テクスチャーの違い
- 通常の豆:焙煎が進むと表面が滑らかに
- デカフェ豆:深煎りでも表面がやや皺のまま
3-3. クラック音の変化
ファーストクラック
- 通常より低い温度で発生することがある
- 音が小さい、または聞こえにくい
- すでに細胞壁が脆弱化しているため
セカンドクラック
- さらに静か
- Sweet Maria’s社:「デカフェの第1、第2クラックの温度は低く、クラック間の進行も速い」
3-4. オイルの早期出現
驚くべき現象がある。デカフェ豆は、セカンドクラックに達していないにもかかわらず、焙煎後数日でオイルが表面に現れることがある。
原因 「豆の構造がプロセス後により脆弱になり、豆の細胞壁がより低い温度で破裂しやすくなり、オイルが表面に移動できるようになる」(Sweet Maria’s)
通常の豆では、オイルの出現は深煎り(セカンドクラック以降)の証だ。しかしデカフェでは、ミディアムロースト程度でもオイルが出ることがある。これも誤解の原因となる。
第4章:焙煎士たちの工夫
4-1. 色ではなく音と香りで判断
Decadent Decaf社(ヨーロッパ唯一の専門デカフェ焙煎会社)は次のように述べる:
「スイスウォータープロセスのデカフェを焙煎する際は、細部への絶対的な注意と経験が必要です。特に焙煎カーブの終盤に向けて、色の変化はより微妙で気づきにくくなります」
プロの焙煎士が重視する要素
- クラック音:小さいが注意深く聞く
- 香りの変化:メイラード反応の進行を鼻で確認
- 時間と温度:プロファイルに忠実に
- 豆の内部色:挽いてから内部の色を確認
4-2. 専用プロファイルの必要性
Sagebrush Coffee社は強調する:
「多くの焙煎士が犯す間違いは、通常のコーヒーとデカフェに同じ焙煎プロファイルを使用することです。しかし、私たちはそうしません!新しいデカフェコーヒーを受け取るたびに、サンプルロー
ストを行い、その特定の産地の特性を輝かせるために必要な独自の焙煎プロファイルを見つけ出します」
4-3. 低温・スロー焙煎の推奨
多くの専門家が、デカフェには「低温でゆっくり」というアプローチを推奨している。
理由
- 豆の外側を焦がさずに内部まで均一に熱を通す
- 脆弱な細胞構造を考慮
- 急激な温度上昇を避ける
Sweet Maria’s社のカスタマーサービスマネージャーMike氏は、Behmor 1600(家庭用ロースター)について次のように語る:
「Behmorは、最高設定でも比較的穏やかな温度上昇を示すため、デカフェの焙煎に適した機械の一つです。デカフェを焙煎する際、特別なことは何もしません。ゆっくりとした温度上昇が、すでにデカフェの良さを引き出すのに適しているのです」
4-4. 挽いた豆の色で判断
最終的な焙煎度の確認方法として、Sweet Maria’s社は次のように提案している:
「豆の外観色は焙煎の種類(浅煎り、中煎り、深煎り)に関わらず暗く見えるため、挽いたコーヒーの色の一貫性に注意を払うことがより重要です。豆の内部色と淹れたコーヒーの風味により、異なる焙煎プロファイルを区別できるはずです」
第5章:各脱カフェイン法と色の関係
5-1. スイスウォータープロセス(SWP)
色の特徴:最も濃い茶色〜ダークブラウン
プロセスの概要
- グリーンコーヒーエキス(GCE)を作成
- 水とコーヒーの水溶性固形分(カフェイン除去済み)
- 生豆を再水和(土や埃の除去も兼ねる)
- GCEに8〜10時間浸漬
- カフェインのみがGCEに移行
- 活性炭フィルターでカフェイン除去
- 乾燥・安定化
色が濃くなる理由
- 8〜10時間という長時間の水浸漬
- 水溶性成分が一度抜け出て戻る過程での化学変化
- 細胞構造の大幅な変化
利点
- 化学溶剤不使用
- 99.9%のカフェイン除去
- オーガニック認証を維持可能
5-2. CO2法(超臨界二酸化炭素法)
色の特徴:薄茶色〜ライトブラウン
プロセスの概要
- 生豆を蒸して水分を含ませる
- 高圧容器に入れる
- 300気圧、65℃の条件下でCO2を循環
- 超臨界状態のCO2がカフェインを選択的に溶解
- 風味成分はCO2に溶けにくく豆に残る
色が比較的薄い理由
- CO2がカフェインに選択的に作用
- 水処理ほど豆全体を変化させない
- 処理時間が比較的短い
利点
- 風味の保持が優れている
- 化学溶剤不使用
- 大規模生産に適している
- 回収したカフェインを他の用途に利用可能
5-3. 溶剤法(MC/EA法)
色の特徴:緑褐色〜茶褐色(中間的)
使用される溶剤
- メチレンクロライド(MC)
- エチルアセテート(EA):果物に自然に含まれる
直接法
- 生豆を蒸す
- 溶剤で直接豆をすすぐ
- 再度蒸して溶剤を除去
- 乾燥
間接法
- 生豆を水に浸してカフェインと風味成分を抽出
- その水を溶剤で処理してカフェイン除去
- カフェインを除去した水を豆に戻して風味を再吸収
- 乾燥
色の特徴
- 直接法:やや濃い緑褐色
- 間接法:比較的緑色が残る
安全性 FDAとOSHAは、焙煎後の残留量(2〜3mg/kg)は安全基準(10mg/kg)を大きく下回ると認めている。蒸気と焙煎の高温処理で溶剤はほぼ完全に蒸発する。
5-4. マウンテンウォータープロセス
色の特徴:ストロー色〜ライトシナモンブラウン
特徴
- スイスウォータープロセスに似た原理
- メキシコの工場で行われる
- 水と独自のコーヒー固形分ブレンドを使用
Smokin’ Beans社の評価 「ブラインドテイスティングでは、マウンテンウォータープロセスのデカフェがMCデカフェやスイスウォータープロセスよりも好まれることが多い」
第6章:デカフェ焙煎の実践ガイド
6-1. 初心者が知っておくべきこと
基本原則
- 色を信じない:外観は焙煎度の指標にならない
- 音を聞く:クラック音は小さいが重要な指標
- 香りを嗅ぐ:メイラード反応の進行を確認
- 時間を測る:プロファイル通りの時間を守る
Sweet Maria’s社は励ます:「数回焙煎すれば、これらの視覚と匂いを理解できるようになります。それは楽しいプロセスであり、コーヒーが少し明るすぎたり暗すぎたりしても、新鮮な自家焙煎コーヒーであることに変わりありません!」
6-2. 家庭用ロースターでの注意点
ポップコーンポッパー
- 高温・短時間の焙煎になりやすい
- デカフェには不向きな場合も
- ただし、質量減少が少ないため焙煎時間は通常より長め
ドラムロースター
- 低温でゆっくりが基本
- 予熱温度を通常より低めに設定
- クラック音に細心の注意
エアロースター(流動床式)
- デカフェの滑らかな表面により空気の流れが変わる
- 熱伝達が変化するため温度調整が必要
6-3. 焙煎後の変化
質量減少の違い デカフェは脱カフェイン処理ですでに質量の一部を失っているため、焙煎後の質量減少が通常の豆より少ない。
チャフの量 デカフェはほとんどチャフを出さない。Sweet Maria’s社:「プラス面として、デカフェはチャフコレクターに溜まるチャフをほとんど出しません」
オイルの出現 焙煎後数日でオイルが表面に現れることがある。これは必ずしも深煎りを意味しない。
6-4. カッピングと評価
風味プロファイルの違い
PMCの研究によれば、デカフェと通常のコーヒーでは揮発性化合物の組成が異なる:
- フラン、酸、ケトン、アルデヒドがデカフェで高い
- 一部の香気成分が減少
原因 「豆の色が薄茶色になるため、同じ最終色を達成するにはデカフェ豆の方が時間がかからない可能性があり、つまりデカフェ豆の焙煎度が低い可能性がある。一般的に、焙煎度が低いコーヒーはより多くの酸味を呈する」(PMC研究)
第7章:よくある誤解と真実
7-1. 「デカフェは化学物質まみれ」?
真実
- スイスウォータープロセス:化学溶剤不使用
- CO2法:天然のCO2のみ
7-2. 「デカフェは風味が劣る」?
真実 脱カフェイン技術は大きく進歩している。適切に処理され、適切に焙煎されたデカフェは、通常のコーヒーと遜色ない風味を持つ。
Decadent Decaf社:「スイスウォータープロセスはコーヒーに含まれる揮発性化合物をそのまま残す素晴らしい仕事をしています」
7-3. 「デカフェは全くカフェインゼロ」?
真実 完全にゼロではない。
- スイスウォータープロセス:99.9%除去(0.1%残留)
- その他の方法:94〜98%除去
8オンス(約240ml)のカップに約7mgのカフェインが残る。通常のコーヒーが95mgなので、約7%だ。
Old City Coffee社:「技術的には、デカフェにもカフェインが含まれると言えます。しかし、何か感じるためには、1日40杯飲んだことで有名なOnoré Balzacよりも多くのカップを飲まなければなりません」
7-4. 「茶色い生豆=焙煎しすぎ」?
真実 これは最も一般的な誤解だ。茶色いのは生豆の段階での色であり、焙煎度とは関係ない。
Sagebrush Coffee社は明確に述べる:「スイスウォータープロセスの豆の独自性により、提供するすべてのデカフェは深煎りに見えますが、そうではありません。結局のところ、デカフェコーヒーはカフェインの有無に関わらずコーヒーです。SWP豆の焙煎プロファイルは、他の豆と同じように産地、標高、品種、風味プロファイルによって決定されます。外観が暗いからといって、深煎りというわけではありません」
第8章:未来のデカフェ技術
8-1. より良い方法の探求
コーヒー業界は、カフェインを除去しながら風味を完全に保持する方法を追求し続けている。
新しいアプローチ
- 遺伝子組み換えによる低カフェイン品種の開発
- 新しい溶剤の研究
- 処理時間の短縮技術
- より選択的なフィルター技術
8-2. 消費者の認識の変化
デカフェの市場は成長している。National Coffee Association(全米コーヒー協会)によれば、アメリカの成人の約10%が毎日デカフェを飲んでいる。
健康志向の高まり、妊娠中や授乳中の女性、カフェイン感受性の高い人々など、デカフェのニーズは多様化している。
8-3. 持続可能性の観点
環境への配慮
- スイスウォータープロセス:水のリサイクル
- CO2法:CO2の再利用
- カフェイン副産物の活用(エナジードリンク等への再利用)
Swiss Water社は継続的にGCE(グリーンコーヒーエキス)の健康状態を監視し、最高のパフォーマンスを維持している。
結論:色が語る物語
デカフェの生豆が茶色い理由、それは単なる色の変化以上の意味を持つ。
この茶色は、コーヒー豆が経験した旅の証だ。水に浸され、圧力をかけられ、カフェインを取り除かれ、再び乾燥される。その過程で、豆の細胞構造は変化し、化学組成は微妙に変わり、色も変わる。
しかし、その茶色い豆は、決して劣っているわけではない。適切に焙煎されれば、素晴らしいコーヒーになる。
Decadent Decaf社は言う:「ヨーロッパ唯一のデカフェコーヒー会社として、私たちは美味しいデカフェコーヒーを提供することに専念しています。スイスウォータープロセスの独特な性質を理解し、それぞれの豆の個性を輝かせるために細心の注意を払って焙煎しています」
Sagebrush Coffee社は締めくくる:「デカフェコーヒーはカフェインの有無に関わらずコーヒーです。産地、標高、品種、風味プロファイルによって決定されます。外観が暗いからといって、深煎りというわけではありません」
あなたへのメッセージ
次にデカフェの生豆を見たとき、その茶色を単なる「変色」とは思わないでほしい。それは、科学と技術、そして人々の努力が生み出した、美しい変化の証なのだ。
そして、焙煎する際は覚えておいてほしい。色ではなく、音と香りと時間を信じること。
デカフェは、カフェインを除いた単なるコーヒーではない。それは、夜のひととき、妊娠中の安らぎ、健康への配慮、そして何より「コーヒーを愛するすべての人のため」に存在する、特別なコーヒーなのだ。
その茶色い豆に、あなたの技術と愛情を注いでほしい。きっと、素晴らしい一杯が生まれるはずだ。
まとめ:デカフェ生豆が茶色い理由
1. 脱カフェイン処理による物理的変化
- 8〜10時間の水浸漬(スイスウォータープロセス)
- 豆の膨張と収縮による細胞壁の変化
- シルバースキンの除去
- 細胞構造の脆弱化
2. 化学的な変化
- クロロゲン酸の変性
- メイラード反応の早期開始
- 酸化反応による褐変
- pH変化と温度の影響
3. 処理法による色の違い
- スイスウォータープロセス:濃い茶色〜ダークブラウン(最も濃い)
- CO2法:薄茶色〜ライトブラウン(最も薄い)
- 溶剤法:緑褐色〜茶褐色(中間)
- マウンテンウォータープロセス:ストロー色〜ライトシナモンブラウン
4. 焙煎時の特異な挙動
- 急速な色の変化(実際の焙煎度より暗く見える)
- クラック音が小さい、または聞こえにくい
- オイルの早期出現(深煎りでなくても)
- チャフがほとんど出ない
5. 焙煎の鉄則
- 色で判断しない:外観は焙煎度を反映しない
- 音を聞く:小さなクラック音に注意
- 香りで判断:メイラード反応の進行を確認
- 時間と温度を守る:専用プロファイルの作成
- 低温・スロー焙煎:脆弱な細胞構造を考慮
6. よくある誤解
- ×「茶色い生豆=焙煎しすぎ」→ ○生豆の段階での色
- ×「デカフェは化学物質まみれ」→ ○安全性は確認済み
- ×「デカフェは風味が劣る」→ ○適切な処理で高品質
- ×「完全にカフェインゼロ」→ ○約0.1〜6%残留
7. 科学的メカニズムの理解
- 脱カフェイン処理は豆の構造を根本的に変える
- 水や溶剤への浸漬が化学変化を引き起こす
- 細胞壁の脆弱化が焙煎挙動に影響
- これらすべてが「茶色」という視覚的変化に現れる
8. 未来への展望
- より風味を保持する新技術の開発
- 遺伝子組み換えによる低カフェイン品種
- 環境に配慮した持続可能なプロセス
- デカフェ市場の継続的な成長
参考文献
- Sweet Maria’s Coffee Library
- Decadent Decaf Coffee Co. (UK)
- Sagebrush Coffee Company (USA)
- PMC (PubMed Central) – Scientific Research
- Old City Coffee
- Smokin’ Beans Coffee Company
- Swiss Water Decaffeinated Coffee Company
- Michael W. Crowder, PhD (Miami University)
謝辞 本記事の作成にあたり、世界中のロースター、研究者、コーヒー専門家の知見を参考にさせていただきました。特に、デカフェコーヒーの品質向上に日々努力されているすべての方々に敬意を表します。



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