ポルトガルの焙煎機メーカーJOPER ジョペール社 60年守り続けた伝統と家族の絆

プロローグ:15年稼働した鋳鉄の伝説

2022年3月、アメリカのあるロースタリーで、1台の焙煎機が最後の焙煎を終えた。

ジョペールBSR-15。2007年製。15年間、毎日休むことなく働き続けた鋳鉄の焙煎機。約4,000時間の稼働時間を記録し、何千バッチものコーヒーを完璧に焙煎してきた。

オーナーは、より大きな焙煎機に買い替えることを決めた。しかし、この15年選手を手放すとき、彼は言った。「欠陥なし、問題なし。定期メンテナンスを受け、完璧に動作する。鋳鉄のジョペールにとって、4,000時間なんて何でもない」。

中古市場に出されたこの焙煎機は、驚くべき評価を受けた。「心、歴史、そして気概を持った鋳鉄の伝説」。15年経っても、まだまだ現役で働ける。それが、ジョペールの焙煎機だった。

これは、ポルトガルの小さな町で、三世代にわたって鋳鉄という伝統素材にこだわり続けた、ある家族の物語である。

第一章:1962年、一人の男の夢

ポルトガル北部、ポルト近郊のカネラス、サン・カエターノ地区。

1962年、ジョアン・ホドリゲス・ペレイラという名の男が、この地で小さな工場を立ち上げた。彼の目標は明確だった。「本物のコーヒー焙煎機を作ること」。

当時のポルトガルは、独裁政権下にあった。経済は停滞し、多くの人々が貧困に苦しんでいた。しかし、ジョアンには信念があった。「良いものを作れば、必ず認められる」。

彼が選んだ素材は、鋳鉄だった。

鋳鉄は、融点が比較的低く、流動性に優れ、加工性が良好だ。変形、摩耗、破壊に強く、酸化による劣化にも強い。そして何より、熱慣性と卓越した放射能力による保熱性がある。その結果、熱がより均一に保たれ、他のどの素材よりも長く持続する。

コーヒー焙煎機を作るには、理想的な素材だった。

しかし、鋳鉄は高価だった。製造にも手間がかかった。多くのメーカーが、より安価な素材に切り替えていく中で、ジョアンは鋳鉄にこだわり続けた。

「本物を作りたい。後世に残る機械を作りたい」

それが、ジョペール(JOPER – João Rodrigues Pereira, SA)の始まりだった。会社名は、彼の名前のイニシャルから取られた。

第二章:三世代の家族経営

1990年。28年の歳月が流れていた。

ジョアンの孫、ジョアン・パウロ・ピニェイロが会社に加わった。彼は、祖父の情熱を受け継いでいた。そして、新しい時代に対応するための知識も持っていた。

ジョアン・パウロは、徐々に会社の経営に関わるようになり、やがてCEOとなった。しかし、彼が変えなかったものがあった。それは、鋳鉄へのこだわりだった。

「プロバット社をはじめ、かつての偉大な焙煎機メーカーが鋳鉄を使っていたのには理由がある。鋳鉄で作られた古い焙煎機の耐久性が、それを証明している。そして、最近ステンレスなどの素材で作られた焙煎機の品質の低さも、それを証明している」。

ジョペールは、明確な方針を打ち出した。「私たちは、鋳鉄での焙煎機製造に確固としてコミットする」。

さらに、ジョペールは業界で唯一、ドラムの主要ベアリング支持部も鋳鉄で製造していた。優れた効率と耐久性のためだ。そして、彼らは宣言した。「私たちは『プレミアムロースター – 高品質』ブランドだから、2年間の機械保証を提供する」。

息子のジョアン・ピニェイロは、CEOおよびエンジニアリング部門を担当。副ゼネラルマネージャーには、オルガ・ピニェイロ。家族が、それぞれの役割を担いながら、会社を支えていた。

三世代が、同じモチベーションで団結していた。「本物のコーヒー、ココア、ドライフルーツの焙煎機と食品産業向け機器を製造すること」。

第三章:ポルトガルの職人気質

カネラスの工場では、今も伝統的な製法が守られている。

マスタークラフトマン(熟練職人)たちが、一台一台、手作業で焙煎機を組み立てる。鋳鉄と炭素鋼という、伝統的で高品質な耐久性素材を使って。

ドラムは二重壁構造。穿孔されていない。ドラムの下には、ガスバーナーを備えたオーブンがあり、オーブンで生成された熱風が焙煎ファンによって吸い込まれ、ドラムを通って豆と混ざり、コーヒーを焙煎する。

特別な羽根がドラム内に設置され、豆の動きを完璧にする。強力なベアリング。高繊維断熱材による静音設計。プーリーやチェーンを使わない設計。

そして、分離されたサイクロン。効率的で迅速なチャフ除去。強力な自己洗浄式の焙煎ファンと冷却ファン。

ジョペールの焙煎機は、「属性はプロバットに似ている」と評される。しかし、それは単なる模倣ではない。60年近い経験と継続的な改良の結果、時間をかけて実証された伝統的な耐久性素材と、最高品質の産業用バーナー、モーター、ファン、制御装置を組み合わせた、独自の設計だった。

使いやすく、柔軟性があり、静かで、メンテナンスが少なく、エネルギー効率が高い。そして、24時間連続稼働が可能。

「私たちは、プロフェッショナリズム、品質、誠実さを持って仕事をする。そして、経験、親切さ、そしてよく知られたポルトガルの粘り強さで顧客を魅了する。私たちは、他とは違う」。

第四章:世界が認めた品質

アメリカ、クリス・コーヒーのロースタリー。

倉庫の南棟には、4台の産業用コーヒー焙煎機が並んでいる。その中には、新しく購入されたジョペールCRS-120がある。

「この機械は、間接気流焙煎システム、迅速な冷却、効率的なオーブン、そして信頼性と一貫性に対する完璧な評判で知られている。ジョペールブランドは、ポルトガルで手作りされた、鋳鉄や炭素鋼などの伝統的な高品質耐久性素材を使用した、ハイエンドな製造とエンジニアリングプロセスで知られている」。

さらに、デストーナーDP-120、スケールとディスプレイ付き空気圧コンベアTP-120、そして強力なアフターバーナーQFM-120を備えている。これにより、クリス・コーヒーは環境負荷を削減し、空気をクリーンに保っている。

イギリスのあるロースタリーは、数ヶ月間、最適な焙煎機を探し続けた。そして、ジョペールに決めた。オーナーは語る。

「何ヶ月も探した結果、私たちはジョペールに決めました。品質、構造、技術が前例のないものであることは知っていましたが、高レベルのカスタマーサービスと実践的な注意に嬉しく驚きました」。

ドイツのある成功した家族経営企業は、3台目のジョペールを購入した。「何度も私たちの品質を認めてくれている。幸せで誇りに思う」とジョペールは述べた。

第五章:BRIGUSという革新

2010年代、ジョペールは新しい挑戦を始めた。

BPRシリーズの開発だ。これは、タッチスクリーンプロファイル制御を備えた、半自動および全自動の焙煎機だった。

そして、専用のソフトウェア「BRIGUS(ブリグス)コーヒーロースト制御&ログシステム」が開発された。これは、BPRローステッドと完璧に連携するように特別に作られた。

BRIGUSは、新しい概念のコーヒー焙煎制御システムだった。これにより、ロースターは次のことが可能になった:

  • 保存されたプロファイルに基づいて新しいプロファイルを定義
  • 事前定義されたプロファイルに基づいて焙煎
  • 手動または自動プロセス制御
  • 焙煎対ロースト時間のグラフィック表示
  • 温度の記録と表示
  • データベースへの記録
  • レポートの作成とロースト比較

さらに、ジョペールはArtisanやCropsterなどの業界標準ソフトウェアとの互換性も確保した。PhidgetsやMODBUS TCPを介して接続し、豆温度、排気温度、さらにPLC搭載機種ではバーナーパワー、ドラム圧力、ドラム速度、エアフローのログと制御が可能になった。

伝統と革新の融合。それが、ジョペールの新しい方向性だった。

第六章:BPR-25「アグスティーナ」の物語

スペインのEBOCAロースタリーには、特別な焙煎機がある。

BPR-25。彼らは、この焙煎機に「アグスティーナ」という名前をつけた。そして、彼女は「スーパースター」になった。

2015年に導入されたこの25キロバッチサイズの焙煎機は、8年間で約11,000時間稼働した。1時間あたり最大100kg(220ポンド)の焙煎が可能。中規模から大規模のロースタリーに最適だった。

鋳鉄コンポーネントで手作りされ、焙煎の一貫性と制御を実現。二重壁鋳鉄ドラム。タッチスクリーンプロファイル制御。BRIGUSシステム搭載。

「欠陥なし、問題なし。ジョペールのロースタリーは長期戦のために作られている。複数シフト、週7日稼働できる」。

EBOCAは、アグスティーナを愛していた。そして、さらに追加した。BPR-3。この焙煎機が、アグスティーナと並んで働くことになった。

「ジョペールは、この提携を非常に誇りに思う。さらに成長することを見たい」。

第七章:24時間稼働という信頼性

ジョペールの焙煎機には、ある特徴がある。

「24時間連続稼働が可能」。

これは、単なる宣伝文句ではない。実際に、世界中のロースタリーで、ジョペールの焙煎機が昼夜を問わず稼働している。

BSR-15は、1時間あたり約60kg(132ポンド)の処理能力を持つ。1バッチ15分の焙煎時間、3分の冷却時間。つまり、1時間に3〜4バッチ。休むことなく。

鋳鉄の耐久性。二重壁構造の堅牢性。強力なベアリング。断熱材による効率的なエネルギー運用。これらすべてが、24時間稼働を可能にしている。

2016年製のBSR-15は、2022年まで6年間、問題なく稼働した。2007年製のCRM-15は、15年間働き続けた。2020年製のBSR-15は、2年間の短い稼働で中古市場に出たが、それはオーナーが事業を買収し、既に他の焙煎機を持っていたからだった。機械自体には、何の問題もなかった。

「鋳鉄のジョペールにとって、4,000時間なんて何でもない」。

それは、誇張ではなかった。

第八章:カスタマイズという誇り

ジョペールの工場に注文が入ると、営業チームが動き出す。

「私たちは、あなたの焙煎機と機器をカスタマイズします。焙煎機を別の色で塗装したり、焙煎機にあなたのロゴを配置したり…何でも言ってください。実現させます」。

鋳鉄の色。炭素鋼の輝き。ポルトガルの職人たちは、顧客の要望に応じて、一台一台を特別な機械に仕上げる。

産業用の大型機種から、ショップ用の小型機種まで。ラインナップは幅広い:

ショップローステッドシリーズ(BRシリーズ)

  • BR 1: 1kg
  • BR 3: 3kg
  • BR 5: 5kg
  • BR 15: 15kg
  • BR 25: 25kg(自動モデルあり)

各モデルには、スタンダード、アドバンス、プレミアムの3つのバージョンがある。

産業用シリーズ

  • CRM-30: 30kg/バッチ(120kg/時)
  • CRM-60: 60kg/バッチ(240kg/時)
  • CRS-120: 120kg/バッチ(480kg/時)

さらに、デストーナー、空気圧コンベア、アフターバーナーなど、完全な焙煎プラントの設計と実装も行っている。

第九章:ポルトガルの粘り強さ

「ポルトガルの粘り強さ(Portuguese tenacity)」。

ジョペールは、この言葉を何度も使う。それは、単なるマーケティング用語ではない。それは、彼らのアイデンティティだった。

1962年。独裁政権下のポルトガル。経済的に困難な時代に、ジョアン・ホドリゲス・ペレイラは会社を設立した。

1974年。カーネーション革命。ポルトガルは民主化されたが、経済的混乱は続いた。

1986年。ポルトガルがEUに加盟。経済は徐々に回復し始めた。

1990年。孫のジョアン・パウロが会社に加わった。

2000年代。グローバル化の波。多くの製造業が、より安価な労働力を求めて海外に移転した。しかし、ジョペールはポルトガルに残った。

2008年。世界金融危機。ヨーロッパ経済は大打撃を受けた。ポルトガルも例外ではなかった。

それでも、ジョペールは生き残った。

なぜか?答えは、品質へのこだわりだった。

「私たちは、他とは違う。私たちは、鋳鉄という古き良き学校の原則を、先進技術と組み合わせている。私たちは、世界で最高のブランドの一つだ。なぜなら、私たちは高いプロフェッショナリズム、品質、誠実さをもって働き、経験、親切さ、そしてよく知られたポルトガルの粘り強さで顧客を魅了するからだ」。

第十章:2024年、そして未来へ

2024年。ジョペールは創立62年を迎えた。

カネラスの工場は、今も変わらない。マスタークラフトマンたちが、鋳鉄を溶かし、鋳型に流し込み、冷やし、研磨し、組み立てる。

しかし、技術は進化している。

Artisan、Cropsterとの統合。タッチスクリーンインターフェース。PLCによる自動制御。データロギング。プロファイル管理。

伝統と革新。手作業と自動化。鋳鉄とデジタル技術。

これらは矛盾しない。むしろ、完璧に調和している。

三世代目が、今も会社を率いている。ジョアン・パウロとジョアン・ピニェイロ。彼らは、祖父から受け継いだ信念を守りながら、新しい時代に対応している。

世界60カ国以上で、ジョペールの焙煎機が稼働している。アメリカ、ドイツ、イギリス、スペイン、中東、アジア。

各焙煎機の中に、ポルトガルの職人たちの魂が込められている。一台一台が、手作業で作られた芸術作品だ。

エピローグ:鋳鉄に込められた誇り

2007年製のジョペールCRM-15。15年間働き続けた「心、歴史、気概を持った鋳鉄の伝説」。

この焙煎機は、今も誰かのロースタリーで働いているだろう。あと10年、いや20年働くかもしれない。なぜなら、それは鋳鉄で作られているからだ。

あなたが次にコーヒーを飲むとき、それがジョペールで焙煎されたものなら、少し考えてみてほしい。

その一杯の背後には、ポルトガルの小さな町の物語がある。1962年から62年間、鋳鉄という素材にこだわり続けた家族の物語。経済危機を乗り越え、グローバル化の波に抗い、それでも伝統を守り続けた職人たちの物語。

ジョペールは、単なる焙煎機メーカーではない。

それは、本物へのこだわりの物語。品質への妥協なき追求の物語。そして、三世代にわたって受け継がれた、ポルトガルの粘り強さの物語。

鋳鉄は、重く、高価で、加工に手間がかかる。多くのメーカーが、より安価な素材に切り替えた。しかし、ジョペールは言う。

「私たちは、鋳鉄での焙煎機製造に確固としてコミットする。なぜなら、それが正しいからだ」。

カネラスの工場では、今日も熱い鋳鉄が鋳型に流し込まれている。マスタークラフトマンたちが、次の焙煎機を組み立てている。

そして、どこかのロースタリーで、15年前、20年前のジョペールが、今日も完璧に動作している。

それが、ジョペールの焙煎機に込められた、真の価値なのだから。


参考文献:

  • Joper Roasters公式ウェブサイト
  • CoffeeTec(中古焙煎機販売サイト)
  • Coffee Equipment Pros
  • American Plant and Equipment
  • 各種コーヒー業界メディア

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