- はじめに:なぜメルボルンは「世界のコーヒーの首都」なのか
- メルボルンコーヒー文化の歴史:移民がもたらした宝物
- メルボルンコーヒー文化の特徴
- メルボルンで必ず訪れるべき名店カフェ10選
- 1. Seven Seeds(セブン・シーズ)
- 2. Proud Mary(プラウド・メアリー)
- 3. ST. ALi(セント・アリ)
- 4. Industry Beans(インダストリー・ビーンズ)
- 5. Axil Coffee Roasters(アクシル・コーヒー・ロースターズ)
- 6. Market Lane Coffee(マーケット・レーン・コーヒー)
- 7. Higher Ground(ハイヤー・グラウンド)
- 8. Patricia Coffee Brewers(パトリシア・コーヒー・ブリューワーズ)
- 9. Hardware Société(ハードウェア・ソシエテ)
- 10. ONA Coffee(オナ・コーヒー)
- メルボルンコーヒー文化の未来
- コーヒー好きのためのメルボルン旅行のヒント
- まとめ:メルボルンコーヒー文化の本質
はじめに:なぜメルボルンは「世界のコーヒーの首都」なのか
メルボルンは、世界中のコーヒー愛好家から「コーヒーの首都」として称賛される都市です。人口あたりのカフェ数は世界のどの都市よりも多く、街を歩けば数メートルごとに個性豊かなカフェが並んでいます。この都市のコーヒー文化は、単なる飲み物の域を超え、メルボルニアン(メルボルン市民)のアイデンティティそのものとなっています。
2008年、世界的なコーヒーチェーンであるスターバックスがオーストラリア国内の店舗の75%を閉店したことは、メルボルンのコーヒー文化の強さを象徴する出来事でした。地元の独立系カフェの質の高さの前に、大手チェーンでさえ太刀打ちできなかったのです。メルボルンの人々は、フランチャイズではなく、情熱と技術を持ったバリスタが丁寧に淹れるスペシャリティコーヒーを選び続けています。
メルボルンコーヒー文化の歴史:移民がもたらした宝物
イタリア移民とエスプレッソ革命(1950年代)
メルボルンのコーヒー文化の起源は、第二次世界大戦後のイタリアとギリシャからの移民の波に遡ります。1950年代初頭、イタリア人移民は故郷の味を再現するため、エスプレッソマシンをオーストラリアに持ち込みました。1952年には最初のエスプレッソマシンが登場し、1954年にはメルボルン初の本格的なエスプレッソバー「Pellegrini’s Espresso Bar」がオープンしました。
これらのコーヒーハウスは、単なる飲食店ではなく、芸術家、音楽家、自由思想家たちが集まる文化的な拠点となりました。カールトンやフィッツロイ、ブランズウィックといった内陸部の郊外地域に、ヨーロッパスタイルのカフェ文化が根付いていったのです。
レーンウェイ再生とカフェ文化の開花(1980-90年代)
1980年代後半、郊外化によって中心部が空洞化する危機に直面したメルボルンは、都市活性化プロジェクトを開始しました。狭い路地(レーンウェイ)の歩行環境を改善し、カフェ文化を奨励したこの取り組みは、大きな成功を収めました。今やメルボルンのレーンウェイは世界的な観光名所となり、隠れ家的なカフェが数多く軒を連ねています。
1990年代から2000年代初頭にかけて、経済的な余裕と自由な時間を持つ若い世代が、週末の朝をカフェで過ごす文化を定着させました。ブランチはメルボルンの重要な社会的儀式となり、コーヒーは人々を繋ぐ共通言語となったのです。
サードウェーブコーヒーの先駆者(2000年代〜現在)
2000年代に入ると、メルボルンはコーヒーの「サードウェーブ」運動を世界に先駆けてリードしました。これは、コーヒー豆の産地、焙煎、抽出方法のすべてに徹底的にこだわる動きです。メルボルンのロースターは、農家と直接取引し、単一原産地の豆を調達し、各カフェ独自のブレンドを開発しました。
ポアオーバー、サイフォン、エアロプレス、コールドドリップなど、多様な抽出方法が一般的になり、バリスタは科学者のように精密にコーヒーを淹れるようになりました。この革新的な姿勢が、メルボルンを世界のコーヒーシーンの最前線に押し上げたのです。
メルボルンコーヒー文化の特徴
独立系カフェの圧倒的優位性
メルボルンには1,600以上のカフェがあり、そのうち95%が独立経営です。各カフェが独自の個性を持ち、オーナーとバリスタの情熱が直接反映されています。チェーン店では味わえない、パーソナルな体験がメルボルンのカフェ文化の核心です。
世界最高水準のバリスタ文化
メルボルンのバリスタは、単なる従業員ではなく、高度な技術を持つ職人として尊敬されています。多くのバリスタが広範なトレーニングを受け、全国大会や世界大会に出場しています。ラテアートは当たり前で、各バリスタが独自の技術を磨いています。
コミュニティの中心としてのカフェ
メルボルンのカフェには大きな共用テーブルが設置されていることが多く、これはコミュニティ感覚を育む設計です。一人で来ても居心地が良く、見知らぬ人同士が自然に会話を交わす雰囲気があります。カフェは単にコーヒーを飲む場所ではなく、人々が集い、繋がる社会的空間なのです。
ブランチ文化の確立
メルボルンでは、週末のブランチは重要な社会的イベントです。スペシャリティコーヒーと革新的な料理が組み合わさり、多くのカフェが週末は予約で満席になります。アボカドトースト、リコッタパンケーキ、シャクシュカなど、創造的なブランチメニューがコーヒーと完璧にペアリングされています。
オーストラリア生まれのコーヒースタイル
フラットホワイトは、1980年代にオーストラリアで生まれたとされる代表的なコーヒースタイルです。エスプレッソにきめ細かいスチームミルクを加えたもので、カプチーノよりもミルクの泡が少なく、コーヒーの風味がより際立ちます。今では世界中で愛されるスタイルとなりました。
メルボルン独自の「マジック」というスタイルもあります。ダブルリストレット(通常より少量で濃縮されたエスプレッショ)にスチームミルクを加え、5〜6オンスのチューリップカップで提供されます。よりスムーズで濃厚な味わいが特徴です。
メルボルンで必ず訪れるべき名店カフェ10選
1. Seven Seeds(セブン・シーズ)
所在地: Carlton
ウェブサイト: https://sevenseeds.com.au/
メルボルンコーヒー文化の象徴的存在です。2007年にMark DundonとBridget Amorによって設立され、メルボルンのサードウェーブコーヒーを牽引してきました。カールトンの旧倉庫を改装した広々とした空間は、ロースタリーとカフェが一体化しており、100席近くの座席があります。
Seven Seedsの名前は、17世紀にスーフィーのBaba Budanがイエメンからインドへ密かに持ち出した7粒のコーヒー豆に由来します。彼らは品質とトレーサビリティにこだわり、単一原産地の豆や独自のハウスブレンドを提供しています。ポアオーバー、コールドドリップなど多様な抽出方法を楽しめます。
メルボルン大学のすぐ近くにあり、学生や地元住民で常に賑わっています。中心部には「Brother Baba Budan」という姉妹店もあり、狭いレーンウェイにある隠れ家的なカフェとして人気です。
2. Proud Mary(プラウド・メアリー)
所在地: Collingwood
ウェブサイト: https://www.proudmarycoffee.com.au/
2009年にNolan HirteとShari Hirte夫妻によって設立されたProud Maryは、世界が認めるコーヒーの名店です。2025年に発表された「The World’s 100 Best Coffee Shops」で世界第4位にランクインし、メルボルンコーヒー文化の真髄を体現しています。
コリングウッドのSmith Streetの裏手にある明るい旗艦店は、開店当時から革新的な抽出方法(V60、エアロプレス、コールドドリップ)を提供し、業界のトレンドセッターとなりました。すべてのコーヒー豆は一区画先にある「Aunty Peg’s」で自家焙煎されています。
長いL字型のカウンターには複数のバリスタが並び、様々なブレンドとシングルオリジンに対応した多数のグラインダーが設置されています。食事も素晴らしく、伝統的なメニューを避け、独創的なアレンジを施しています。ブレイズドビーフチークにバルカンペッパーペースト、カルダモン香るサワークリームを添えたリコッタホットケーキなど、コーヒーと料理の両方で最高の体験を提供しています。
3. ST. ALi(セント・アリ)
所在地: South Melbourne
ウェブサイト: https://stali.com.au/
2005年にMark Dundonによって設立されたST. ALiは、メルボルンのスペシャリティコーヒーのパイオニアです。サウスメルボルンの裏通りにある改装倉庫が本拠地で、地元でローストされた豆を使用することを普及させた立役者の一つです。
店名は、14世紀のスーフィー教の聖職者Ali ibn Umar al-Shadhiliに由来しています。彼はエチオピアからイエメンにコーヒーを持ち帰り、コーヒーを世界に広めた人物として、コーヒーの守護聖人とされています。
ST. ALiは、農家との直接取引、社内での焙煎、専門的なブリューイング、そして最高級の食事提供で業界をリードしてきました。コールドブリュー缶など、即席飲料製品も開発し、カフェ外でもハイクオリティなコーヒー体験を提供しています。
2008年にSalvatore Malatestaに売却されて以降、ST. ALiブランドは拡大し、Sensory Lab、Auction Rooms、Clementなどの姉妹店を展開しています。インドネシアのジャカルタにも店舗があり、国際的な展開を続けています。
4. Industry Beans(インダストリー・ビーンズ)
所在地: Fitzroy
ウェブサイト: https://industrybeans.com/
2010年にTrevorとSteven Simmons兄弟によって設立されたIndustry Beansは、専門的なコーヒー調達、焙煎、醸造の透明な運営で知られています。フィッツロイの本店は、建築デザインが施された倉庫改装空間で、カフェ、ロースタリー、小売店、トレーニング施設がすべて一つの屋根の下にあります。
2014年には「世界で最もデザインされたカフェ」に選ばれ、その美しい空間は多くの緑の植物と大きな窓に囲まれています。エスプレッソ、ポアオーバー、エアロプレス、コールドドリップなど、あらゆる抽出方法を提供しています。
特に有名なのが「バブルコーヒー」で、コーヒーベースの台湾風バブルティです。また「ポルチーニネスト」という看板メニューは、革新的なブランチ料理として高い評価を受けています。リトルコリンズストリートには、テイクアウト専門の都市型店舗もあり、最先端の設備と洗練されたデザインで素早く高品質なコーヒーを提供しています。
5. Axil Coffee Roasters(アクシル・コーヒー・ロースターズ)
所在地: Hawthorn
オーストラリアバリスタチャンピオンを3度獲得したDave Makinがオーナーを務めるAxilは、メルボルンコーヒーツアーの必須スポットです。ホーソーンの本店は、元ボウリング場を改装したユニークな空間で、ミルク缶のライトフィッティングや壁面に育つ多肉植物など、インテリアも魅力的です。
豆のほとんどは生産者から直接調達され、ハウスブレンドは季節ごとに変わり、美味しいフードメニューと完璧に調和します。コーヒーの品質だけでなく、雰囲気も最高で、訪れる価値のあるカフェです。
6. Market Lane Coffee(マーケット・レーン・コーヒー)
スペシャリティコーヒーロースター兼小売業者として、持続可能で尊重あるアプローチで例外的なコーヒーを調達、焙煎、共有することに専念しています。世界中からフルーツやチョコレートのフレーバーを持つビスポークブレンドを提供し、社会的・環境的に責任あるコーヒーハウスとして評価されています。
7. Higher Ground(ハイヤー・グラウンド)
所在地: Melbourne CBD
メルボルンCBDの巨大カフェで、開店当初から即座にクラシックとなりました。Darling Group(Top Paddock、Observatoryなどを運営)による店舗で、その規模と美しさで圧倒されます。高い天井と開放的な空間は、一日中活気に満ちています。
8. Patricia Coffee Brewers(パトリシア・コーヒー・ブリューワーズ)
所在地: Melbourne CBD
立ち飲み専門のコーヒーバーで、メルボルンカフェの完璧さを体現しています。小さなスペースながら、高品質なコーヒーを素早く提供し、忙しいビジネスパーソンや通勤者に愛されています。
9. Hardware Société(ハードウェア・ソシエテ)
所在地: Melbourne CBD
メルボルンで最高のフレンチカフェの一つで、パリジャンの魅力とエレガントな雰囲気が特徴です。2016年にはパリにも出店するほどの人気ぶりでした(2025年に閉店)。新鮮なペストリー、レモンカードヨーグルト、毎週変わるクロックマダムなど、本格的なフランス料理を楽しめます。
自社の料理本も出版しており、その品質と一貫性が証明されています。メルボルン中心部に2店舗展開し、朝は特に混雑しますが、回転が早いので待ち時間は短めです。
10. ONA Coffee(オナ・コーヒー)
所在地: Melbourne
キャンベラとシドニーで長年営業してきた後、ついにメルボルンに進出したスペシャリティコーヒーの強豪です。メニューには15種類以上のコーヒーバリエーションがあり、現在はピスタチオクリームアイスラテが人気です。
チームは真剣にコーヒーと向き合い、必要なアドバイスを喜んで提供してくれます。優れたメルボルンカフェの伝統に則り、選りすぐりの焼き菓子も豊富に揃えています。
メルボルンコーヒー文化の未来
メルボルンのコーヒー文化は、伝統を尊重しながらも常に革新を続けています。2025年現在、新しいカフェや焙煎所が続々とオープンし、次世代のバリスタたちが新しいスタイルを生み出しています。
持続可能性と倫理的調達への関心が高まり、多くのカフェが環境に配慮した実践を採用しています。紙製品の廃止、持続可能な包装、完全堆肥化可能な素材の使用など、エコフレンドリーな取り組みが進んでいます。
また、日本やアジアの影響を受けた新しいカフェスタイルも登場しています。抹茶、煎茶、日本風のブランチメニューを提供するカフェが増え、メルボルンのコーヒー文化はさらに多様化しています。
コーヒー好きのためのメルボルン旅行のヒント
最適な訪問時期
メルボルンは四季がはっきりしており、春(9-11月)と秋(3-5月)が訪問に最適です。天候が穏やかで、屋外席でコーヒーを楽しむのに理想的です。
カフェホッピングのコツ
- 朝早めの訪問: 人気カフェは週末の朝8-10時が最も混雑します。7時頃に訪れるとゆったり楽しめます。
- 複数のカフェを訪問: 一日で2-3軒のカフェを訪れるプランを立てましょう。メルボルンは徒歩やトラムで移動しやすい街です。
- 地元の人に聞く: バリスタや地元の人におすすめのカフェを聞くと、隠れた名店を発見できます。
注文のポイント
- フラットホワイト: メルボルンの定番。まずはこれを試してみましょう。
- シングルオリジン: より深い味わいを求めるなら、単一原産地の豆を使ったコーヒーを。
- フィルターコーヒー: ポアオーバーやバッチブリューで、豆本来の風味を楽しめます。
エリア別おすすめ
- Carlton: Seven Seeds、大学の雰囲気
- Fitzroy: Industry Beans、アート&カルチャーシーン
- Collingwood: Proud Mary、ヒップな雰囲気
- South Melbourne: ST. ALi、倉庫街の魅力
- CBD: Higher Ground、Patricia、アクセス便利
まとめ:メルボルンコーヒー文化の本質
メルボルンのコーヒー文化は、単なる飲み物の消費を超えた、深い社会的・文化的現象です。イタリア移民がもたらしたエスプレッソの伝統、独立系カフェの創造性、世界最高水準のバリスタ技術、そしてコミュニティの中心としてのカフェの役割—これらすべてが融合し、他に類を見ない独自の文化を形成しています。
メルボルンを訪れるコーヒー愛好家にとって、この街は単なる観光地ではなく、巡礼の地です。一杯のコーヒーに込められた情熱と技術、そしてそれを囲む人々との交流が、メルボルンでしか味わえない特別な体験を生み出しているのです。
次回メルボルンを訪れる際は、ぜひこのガイドを参考に、世界最高峰のコーヒー文化を存分に堪能してください。あなたの人生最高の一杯が、メルボルンのどこかで待っているはずです。



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